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『スノーテイスト』
明日に文学フリマを控えまして、前回の文学フリマに掲載した私の小説を載せたいと思います。
すでに前回の本は全て売り切れて絶版になりましたし。

<あらすじ>
東京から青森行きの新幹線で語られる雪にまつわるお話。
ゆきのまち幻想文学賞応募作です。
短いです。


------------------------------

 懐かしい夢を見ていた。
 それはユミと初めて出会った日のことで、上京して三年経った雪の降る日のことだった。
 週末の会社帰りにいつもの居酒屋で飲んで最寄駅に着いた雅之は、帰ってすぐに寝るのは忍びなく、小雪がちらつく中、前から気になっていたバーに立ち寄ることにした。
 深夜、すっかり車も減った国道に面してそのバーはある。少し前まではこんな雰囲気のあるバーに一人で入れるようになるなんて思わなかった。中は薄暗く、五人も座れば一杯のカウンター席のみ。カウンター奥にはバーテン、席には女性客――ユミだった――が一人いる。窓側の席には街頭の弱い光がぼんやりと差し込んでいる。窓の外では静々と降る雪が街頭に照らされていて、不思議な空間に足を踏み入れた気がした。
 少し放心したまま席に着いてシングルモルトを注文するとユミは声をかけてきた。あの日、結構な酒量を飲んだから、どんな話をしたかは覚えていない。しかし、連絡先は聞いていたから、またユミと会い、親しくなるのにそう時間はかからなかった。




 車内のアナウンスがどこかに到着すると告げた。夢から覚めた雅之は新幹線に乗っていることを思いだした。
 隣に座るユミは、前の座席の背面テーブルの上に文庫本を広げて目を落としている。通路を挟んで三列とニ列のシートがあり、三列シートの窓側に雅之、真ん中にユミ、通路側に知らない初老の男が座っている。窓の外を見るとすっかり田舎の風景だ。

「いまどのへん?」

 雅之は乾いて開かない目を擦りながらユミに尋ねた。

「もう少しで八戸みたい。まだ寝てていいよ?」

 二人で東京駅から新幹線に乗った。腕時計を確認するとニ時間ほど経っているようだ。

「ん、そろそろ起きるよ」

 軽く伸びをして身体を起こした雅之は、窓枠スペースに置いたすっかり気の抜けた缶ビールに口をつけた。発泡酒ではない、しっかりしたビールだ。仕事から帰ると雅之はいつも発泡酒を飲んでいるが、年末の休みに入った開放感と少しの贅沢気分を味わいたくてちゃんとしたビールを買った。仕事から帰って発泡酒やウイスキーを飲むのが習慣だったが、この日は朝帰りだったので新幹線の中で飲むことにした。
 予定外の徹夜だった。できれば昨日の夜に帰って、買ったばかりのウイスキーで晩酌をしたかった。しかし、年明けから必要になる資料の作成がどうしても終わらず、やっと帰ったのは今朝。新幹線の時間に余裕はあったが、酒を愉しむ時間も寝ている時間もなかった。用意していた荷物と、実家への土産である日本酒が入った紙袋を手に、ユミと一緒に家を出た。もちろん寝不足だったが東京から新青森までの三時間で寝ればいい。
 東京駅で朝食のパンと缶ビールを買った。季節は十二月の暮れ。外は寒いがおそらく新幹線の中は暑いだろうからビールにした。
 座席に着き東京駅を発車して数分経った頃、都会の町並みを横目に缶ビールに口を付ける。程なくして疲れと酔いで睡魔に抗えず眠ってしまった。




 八戸駅にほんのわずか停車し、新幹線はまた雪の山間を走りだした。
 遠くの山々もまばらな民家や田畑も、すっかり雪に覆われている。
 東京に雪は降っていなかったが、やはり青森は雪なんだなと雅之は思う。東京では暑いくらいのダウンジャケットを着て来てよかった。

「緊張してきちゃった」

 外を見つめる雅之にユミは声をかけた。
 ユミと一緒に暮らし始めて一年になった。地元、青森の大学を卒業してから東京に就職し、春で丸五年になる。就職してから初めての帰省、そして両親にユミを紹介する。いかに人見知りしないユミでも緊張は仕方ないように思えた。

「大丈夫だよ」 

 いつもよりも硬い笑顔のユミに答える。ユミはきっと両親ともすぐ仲良くなるだろうと雅之は思う。

「雅之は大丈夫なの?」

「え、何が?」

 聞かれた雅之は反射的に聞き返した。

「だって、五年ぶりに帰るんでしょ? なんで五年も帰らなかったの?」

 言われてみれば五年ぶりの帰省なら何か思っても良さそうだ。ユミは実家が近所なので何かあるたびに帰る。その感覚から言えば雅之と実家の関係は不思議に思うのだろう。
 両親と仲が悪いわけじゃない。たまには電話もするし新幹線に乗る前だってメールした。青森が嫌いなわけでもない。地元の友人ともネットを通じて交流はある。帰らなかった理由は……そうだ。窓の外を見て、さっき思い出した。

「そういえば言ったことなかったけど、冬というか、雪が嫌いだ」

「へー、聞いたことなかったなぁ」

 意外そうな顔で見つめるユミに続ける。

「東京は雪が降らないしあまり寒くないから別に嫌いじゃないんだ。嫌いなのは青森の雪だね。だから今まで言う機会が無かったのかも」

 青森の冬は寒いというよりも痛い。肌にぶつかる雪と風で、冷たいというよりも刺すように痛む。そんな暴力的な雪が雅之は嫌だった。
 ユミがまた尋ねる。

「でも子供の頃って雪好きじゃなかった? 子供は雪で遊んでるイメージあるなぁ」

 確かにその通りだ。子供の頃は雪が降っても喜んでいた。雪だるまやかまくらを作ったり、雪合戦、スキー、そりもした。もちろん寒かったけど、それでも近所の子供達はみんな外に出て、暗くなるまで一緒に遊んだ。雪の中にいるだけでワクワクした。それがいつからか雪や寒さを煩わしく感じて、家にいることが多くなった。たぶんみんなそうだ。言い換えれば、それが大人になるってことなのかもしれないと雅之は思った。




 山の中で新幹線が止まったのは八戸を出発してから十分ほどしてからだった。
 暴風雪の影響でしばらく停止するとアナウンスされ、車内はシンと静まった。走っている時は気付かなかったが、窓を見ても周囲がほとんど見えない。
 雅之はユミと顔を見合わせ、スマートフォンを確認したが圏外。仕方なく待つ心づもりでいると、ユミを挟んで通路側の席に座る初老の男が、話しかけてきた。
「どうですか、やりませんか?」
 彼の背面テーブルを見ると、ウイスキーの小瓶と紙コップが三つ。どうせすぐ運転再開するだろうし、せっかくなので頂くことにした。
 男はウイスキーを注いだ紙コップを手渡し、ついさっき雅之とユミが話していた話題に触れた。

「盗み聞きするつもりはなかったんですが、私も青森から東京に就職しましてね」

 この年末に青森に行こうという人なのだからそれほど意外なことではない。男は東京で酒の卸問屋をしていると言った。

「実は私も青森の雪は嫌いでした」

 自分以外にもそう思っている人がいた。しかし、でした? とは今は違うということだろうか。

「でした、というのは……?」

「ええ、今は好きになりました。子供の頃は雪が好きでね。大きくなるに連れて嫌になって東京へ飛び出したんですが、何度も帰るうちに今はまた好きになりましたよ」

 雅之は驚いた。好きな物が嫌いになって、また好きになるということがそうあるだろうか。男の言っていることがいまいち理解できないでいると、その様子を見て、男は話しだした。

「この考え方は何にでも当てはまると思ってるんですけどね。子供の頃は甘いものやしょっぱいものが美味しいと感じるでしょう? それが子供の頃に雪が好きな理由です。でも大人になるとその分かりやすい味に飽きてくる。それが雪嫌いになるということです。そして、また好きになったってことだけども」

 男はウイスキーを一口飲み、その紙コップを手に持ったまま続けた。

「初めてウイスキーを飲んだ時、美味しいと思いましたか? 初めてビールを飲んだ時は? 最初から美味しいと思う人はいません。それがなぜ美味しいと思えるのか、それは後天的な味覚。つまり味覚が育ったからです。何度もウイスキーを飲んでいると美味しいと感じられてくるように、きっと私も青森に帰省する度に、味覚が育ったんですね、ははは」

 雅之には男の言ったことが理解できなかった。味覚が育ったと言うが、最初は好きだったのだから違うような気がしたのだ。
 それから五分ほどして運転は再開された。
 新青森駅に降り立った。刺すように痛い風に思わず頬を抑えた。

「うわー。すっごい冷たいね。雅之のお母さんが迎えに来てるんでしょ? 急がなきゃね」

 そう言ってエレベーターに向かうユミを追いかけ、雅之は東京に行く前とは違った心持ちでいることに気がついていた。

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【2016.11.22 (Tue)】 小説 // TRACKBACK(0) // COMMENT(0)
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